ピロリ菌から胃潰瘍に?
更新日:2023年7月20日
監修/北村 聖
東京大学医学教育国際協力研究センター 教授
● 胃と胃潰瘍の関係
胃は食べ物を消化し、栄養を吸収しやすい状態にして小腸に送り出します。
このため、胃壁(いへき)から塩酸と同じくらい強い酸である胃酸が分泌され、消化活動を行います。また、胃酸は食べ物と一緒に入ってきた細菌や微生物などを死滅させ、胃の中で腐敗が起こらないようにする働きもしています。
胃壁からは、胃酸と同時に胃粘液も分泌されます。胃粘液には消化力の強い胃酸が直接胃粘膜に触れて損傷を与えないようなバリアー機能があります。
■ 胃粘膜の修復ができなくなると?
健康な胃では、少しくらいの損傷は周囲の細胞がたちどころに増殖して胃粘膜を修復します。しかし、何らかの原因で修復が間に合わないと、胃酸による消化が進み、胃壁の組織が失われた結果、「胃潰瘍」といわれる状態になります。
この原因には、ヘリコバクター・ピロリ菌による慢性胃炎や鎮痛薬(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、ストレスなどが知られています。
ヘリコバクター・ピロリ菌は、アンモニアや毒素を作り出して胃粘膜を直接損傷することがわかっています。
■ 胃粘膜の修復は、胃粘膜を流れる血流が鍵
胃粘膜には、消化に必要な血液を供給するためにたくさんの毛細血管が走行しています。胃粘膜の細胞が損傷しても、この血液が十分にあると修復に必要な栄養や酸素を確保できます。また、血流は胃壁の修復力を高める働きもしています。ところが、ストレスや鎮痛薬は、胃粘膜の血管を収縮させ血液量の不足を招き、修復力を低下させます。
● 症状が現れる場合は
症状の現れかたから、急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍に分ける場合があります。
症状には、みぞおちなど腹部の痛み、背中の痛み、腹部の不快感、むねやけや吐き気などがあります。空腹時や食後、少し時間がたってから痛みが起こる場合が多く、軽い食事の後は痛みがなくなる傾向があるといわれます。
潰瘍で胃壁の血管が傷つき、出血しているような状態では、吐血やタール状の黒い便がみられることもあります。
一方、まったく自覚症状はなく、人間ドックなどで偶然発見される場合もあります。
また、胃潰瘍の70~90%でヘリコバクター・ピロリ菌の感染がみられます。
● 主な検査
■ X線造影検査
バリウムを飲んでレントゲン撮影する検査です。
潰瘍の形や周囲の胃粘膜および胃壁の状態を観察します。
■ 内視鏡検査
胃カメラで直接、潰瘍の状態を観察して病気の進み具合を判定します。
また、生検(せいけん)といって内視鏡の先端に付属した器具で組織の一部を採取し、癌の有無を確認する場合があります。
ヘリコバクター・ピロリ菌に対する検査
ピロリ菌の検査には、内視鏡検査の必要な「迅速ウレアーゼ試験」「鏡検法」「培養法」、と内視鏡検査を必要としない「尿素呼気検査」「血清・尿中抗体測定法」があります。
● 進行度の分類
胃壁は、内側から「粘膜層」「粘膜下層」「固有筋層」「しょう膜下層」「しょう膜」と5層にわけることができます。粘膜内までの浅い潰瘍は、びらんといわれます。
●急性胃潰瘍は、出血をともなった粘膜下層までの浅い潰瘍が多く、びらんの多発もみられます。
●慢性胃潰瘍は、40歳~50歳代に多く、単独で円形の潰瘍となる傾向がみられます。
● 治 療
治療は、薬物療法、手術やヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法などがあります。
■ 薬物療法
薬物療法では、主に胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬などを使用します。
胃酸分泌抑制薬
胃酸の分泌を抑える薬です。ヒスタミンH2受容体拮抗薬(シメチジン、ファモチジン他)、プロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾール、オメプラゾール他)などがあります。
胃粘膜保護薬
胃粘膜を保護して胃粘膜の修復力を高める薬です。スクラルファート、レバミピドなどがあります。
■ 手 術
胃潰瘍で血管が損傷し出血しているような場合は、内視鏡の先端に付属した小さなクリップで血管を止血する内視鏡的止血法が行われます。
ヘリコバクター・ピロリ菌に対する除菌療法
ヘリコバクター・ピロリ菌に感染していると、胃潰瘍の再発を繰り返すことが知られています。検査の結果、陽性であれば2種類の抗生物質と胃酸分泌抑制薬を組み合わせた除菌療法を行います。除菌療法の副作用は、抗生物質による下痢が主なもので、軟便、皮疹、味覚異常、食欲不振などもみられます。
除菌終了後4週間以上経過した時点で、除菌の成果を調べるため、再び検査を行います。成功率は、80%といわれています。除菌療法に成功すると、ほとんどの患者さんで胃潰瘍の再発はみられません。
除菌療法についてさらに詳しいことは、医師にご相談ください。
■ 原因の除去
ストレスや薬物など、原因がはっきりしている場合は原因を除去することが大切です。
■ 治療のポイント
胃潰瘍を治療する上で大事なことは、薬剤の服用を医師から指示されたとおりに守ることです。薬剤の効果で治療開始後の早い時期に症状は治まりますが、潰瘍が治ったわけではありません。医師から指示された期間、必ず薬剤の服用を続けることが治療のポイントになります。
● 生活習慣の改善
胃潰瘍では、過労やストレスを避けることが大切です。
酒、禁煙はもとより、胃酸の分泌を促すような食事(コーヒー、濃いお茶や紅茶、焼肉、強い香辛料などの刺激物)は控え、規則正しい食生活を心がけます。
そして消化のため、十分な血液が胃に送られるように食後30分くらいは体を動かさないようにすると良いでしょう。
編集:株式会社ライフメディコム
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